QE2の意味

昨年の11月から開始されたQE2(Quantitative Easing 2)が先日終了した。このFRBによる金融緩和政策によって経済の何がどう変わったか、というと、ほとんど変わってはいない。何のためのQE2だったのだろうか。

もともとFRBはこの金融緩和政策によって経済が影響を受ける、とは考えていなかった。その主な理由は、Reserve Requirement(民間の銀行に課せられた法定準備率)が制約として機能していないことから分かるように、銀行にはお金が余っていたからである。この状況でお金を経済に注入しても民間企業への貸出が増えるわけではない。

では、FRBは何のためにQE2を実施したのだろうか。おそらく投機的バブルを期待したのではないだろうか。もしもバブルが発生すれば、資産効果によって景気や雇用はするだろう。

しかし、期間限定の金融緩和では、それ自体で投機的バブルを起こすことはできない。というのは、確率過程としての現象である投機的バブルには、無限の資金供給に裏打ちされた無限に続くパスが存在しなければならないからである。

この意味で、QE2に期待されたのは、投機的バブルではなく、あくまで、投機的バブルを誘発する起爆剤としての役割であろう。実際、起爆剤として機能する環境は存在していた。というのも、「法定準備率が制約として機能していない」ということは、必要であれば大量の資金を民間の銀行が供給できる、ということを意味しているからである。

今回のQE2では、残念ながら(と言うか、幸い、と言うか)投機的バブルは発生しなかった。もちろん「何も起きなかった」ということではない。実際、商品市場などで投機が起こり、原油などの価格が上昇した。

これによって、「アメリカ国内ではデフレが回避された」と言ってQE2を評価する人もいるが、インフレと言ってもコストの上昇によるインフレなぞ、ある意味ではデフレよりもたちが悪い。貧乏人からカネをむしり取るようなものだからである。

バーナンキは6月22日に「QE2終了後も金融緩和(3千億ドル!)を行なう」と述べた。彼は、どうしても、投機的バブルを起こしたいようである。しかし、国債の大量購入によって金融を緩和しても、つまり、ゼロ金利の下で金融を緩和しても、バブルは発生せず、ドル安とインフレが進行するだけのように思われる。海外からの資金流入が期待できないからである。

もちろん、ドル安とインフレがアメリカにとって必ずしも悪いわけではない。もしもそのようなことが起これば、アメリカはモノをたくさん生産するようになり、雇用は増え、輸出も増え、不良債権についても実質的に減少することになるからである。

しかし、そうなると、おそらく金融セクターは困るのではないだろうか。というのは、ここ数十年の間、金融セクターの儲けの主要な源泉は、有望な成長企業への融資による利益ではなく、投機というギャンブルのテラセンだからである。

FRBは、おそらく、金融セクターを救済しようとしてバブルが起こるまで金融緩和を行ない続けるだろう(実質的にQE3、QE4と続けることだろう)。しかし、それが逆に金融セクターの首を絞めることになるとしたら、なかなか興味深いことである。

さてさて、どうなることやら。