円は高すぎるか?

円高が予想されている。アメリカは景気と財政の問題、そしてEUは国債デフォルト問題を抱えているから、ドルやユーロは対円で大幅安になるだろう。

しかし、この見方に反対する人たちがいるようだ。「円は過大に評価されている」というのだ。そして、「適正なレートは1ドル110円前後である」と主張している。

この主張の根拠が「購買力平価」である。ここで言う購買力平価は「相対購買力平価」と呼ばれるものであり、例えば日本とアメリカの物価と為替レートの間には E・(PA/PJ) = 一定、という関係がある、という主張だ。ここで E は為替レート(1ドル=E円)、PJ と PA はそれぞれ日本とアメリカの物価である。

これをどのように使うか、というと、例えば、日本の物価が変わらず、アメリカの物価が10%上昇したとすると、E は10%小さくなる(つまり、円高になる)、という具合である。

この「相対購買力平価」が正しいとすると、1970年代前半の物価水準を基準として、「1ドルは110円前後が適正である」という主張になるようだ。

しかし、この主張には無理があるようだ。というのは、この主張の大前提として、産業構造や関税などの制度が変化しない、という条件があるからである。ところが日本もアメリカも、1970年代と現在では、産業構造も違えば関税などの制度も大きく異なる。自動車やインターネットだけを考えても、大きく違うのである。大前提が成り立たないのだ。

そもそも、購買力平価という考えは、二つの国が、例えば川崎と横浜のように隣接していて、同じような人々が住み、同じような生産をし、しかも行き来が自由であるようであれば、成り立つかもしれない。しかし、日本とアメリカはそうではない。

では、なぜ、「1ドルは110円前後が適正である」などというような主張がなされるのであろうか。想像になってしまうが、素人にドルを買わせるためではないだろうか。

アメリカもEUも、金融に大きな不安材料を抱えている。先進国の中で一番有望な投資先は日本だ。素人がドルを買って円安ドル高になれば、高いドルを売って安い円を買い、有利に日本に投資できることになる。

もし、この想像が正しければ、上の様な主張を聞いて素人がドルを買うのは、いささか危険であろう。まあ、投資は自己責任だから、本人次第、と言われればその通りであるが。

さてさて、どうなることやら。