国債発行上限問題でオバマは負けた?

アメリカ議会では、共和党、特に極右のTea Party一派と民主党国債の発行上限枠をめぐって党派的な争いを数か月にわたって続けた。

とりあえずは決着がついたものの、オバマはリーダーシップを発揮できずに歳出削減を呑まされたことになり、支持率を大きく下げたようだ。

オバマ大統領は負けたのだろうか? いやいや、オバマは負けていないようだ。再選に意欲満々のようである。

これまでの政治的な行動をみると、オバマの戦略は次のようになる。

まず、敵対する強い相手には、相手に好きなように行動させる。その際、オバマは消極的に賛成し、後方支援を行なう。そして、相手の行動が成就したときを見計らって、相手を消すのである。

例えば、医療保険制度がそうだった。オバマが大統領に就任したとき、一番の対抗勢力はヒラリー・クリントン一派だった。この一派は議会、特に下院の一大勢力であり、利権の巣窟でもあった。

そこでオバマが採用した政略は、「クリントン一派を持ち上げる」というものだった。ヒラリーに主導権を渡し、すったもんだの末、医療保険国民皆保険)制度を立法化させたのである。

その結果は、と言うと、前回の国政選挙でクリントン一派の多くは落選し、壊滅状態となったのである。

アフガン問題もそうだった。オバマは海外からさっさと撤兵したかったが、軍は反対している。そこで、軍を使ってウサマ・ビン・ラディンを殺害させ、花を持たせた上で、早期のアフガン撤兵を決定した。

今回の国債発行上限問題も、おそらく、上の例のようなことになるだろう。

共和党は歳出削減を呑ませた、と思っているだろうが、これによって、主に医療保険予算と軍事予算が削減されることになろう。医療保険の予算が削減されても、実は、オバマは痛くもかゆくも無い(もともとクリントン一派の主張だった!)。軍事予算の削減については、困るのは共和党であり、オバマは大歓迎であろう。

来年の選挙では、共和党に勝ち目は無いだろう。景気の悪化にたいして大規模な予算を組めないのも、医療保険制度が規模縮小されたのも、金持ち増税を認めないのも、全部が共和党の責任となるのであるから。

おそらく、オバマアメリカを変えるだろう(再選されれば、だが)。「Yes, we can (change)」である。どう変えるのか、というと、金融を中心とした覇権国家(ドル高と貿易赤字、そして軍事大国)から、実業を中心とした孤立した国家(ドル安、貿易黒字、最小限の軍備)へと変えるのであろう。

ちなみに、日米関係はどうなるか、というと、上の例を参考にすれば良い。オバマは、敵対する勢力に、まず、好きなようにさせる。これは、現在、アメリカの日本利権を持っている勢力、そして日本におけるその協力者(政治家、官僚機構、マスコミ等)に好きなようにさせていることに対応している。そして、その勢力が一定の成果を上げた時(おそらく、菅首相を使って出来るだけのことをし尽くした時)、オバマはおもむろに梯子を外すのである。その際は、在日米軍の撤退を含め、ドラスティックな「change」になることだろう。

最後に、私の印象だが、オバマ大統領の政略(持ち上げて、梯子を外す)は、おそらく、オバマが黒人であることから培われたものであるように思われる。黒人はマイノリティーだ。この黒人が、白人と同じようにリーダーシップを発揮しても、支持し、ついてくるのは、おそらく黒人だけだろう。黒人政治家の戦略の一つとして、「白人を陰で支え、自滅を待つ」というものがあっても、不思議ではない、というか、むしろ自然なのではないだろうか。