デフレは悪い?

今はデフレの時代である。デフレとは、デフレーション(deflation)の略で、物価水準の下落のことである。例えてみれば、1000円でラーメンが2杯(1杯500円)しか買えなかったのに、5杯食べられるようになった(1杯200円)、ということである。同じ1000円で、以前よりもたくさんのモノが買えるようになるのだから、これはお金の価値が上がったことを意味している。つまり、デフレとは貨幣価値の上昇である。

デフレは悪いのか、という問いは、実はあまり意味が無い。というのも、デフレは一つの経済現象であり、それ自体に良いも悪いもないからである。結論から言えば、デフレは良い場合もあるし、悪い場合もある。そして、良くも悪くもない場合もある。デフレを考えるとき重要なのは「なぜデフレになり、それがどのように経済に影響するのか」ということである。

デフレが起こる原因には大きく分けて次の二つがある。生産コストの減少によるものと、需要の減少によるものである。前者(生産コストの減少)によるデフレは悪いことではない。コストが下がり、価格が下がれば需要は増加し、生産は増える。例えば、突然、新しいエネルギーが発見され、エネルギーのコストが 1/10 になったとしよう。すると、生産コストが激減することから、モノの値段は安くなり、人々は以前よりもたくさんのモノが買えるようになる。生産も増え、人々は大きく満足することになる。一方、後者(需要の減少)によるデフレは困る。というのも、作っても売れないので価格を引き下げ、生産も縮小してしまうからである。

上の二つが組み合わされ、いろいろな場合が生じ得る。例えば、生産コストは増加(インフレ要因)しているのに、その効果を打ち消す程の需要の減少(デフレ要因)があればデフレになるし、需要が増大(インフレ要因)しても、その効果を打ち消すほどの生産コストの減少(デフレ要因)があれば、これまたデフレになる。その他にもいろいろな場合があるが、一々書いても冗長になるので、ここでは割愛する。

以上のことを頭に入れて、日本のデフレを考えてみると、生産コストについては、技術進歩や海外生産などにより減少している。また、需要についても、高所得者にたいする減税と低所得者にたいする増税によって、経済全体の需要は減少している。貧しい人ほど、所得に対する消費の割合が大きいためである。つまり、上の二つの理由の両方によって、日本のデフレは起きているのである。また、生産がほとんど増大しないか、あるいは縮小していることを考えると、デフレの原因は、生産コストによるものというよりは、むしろ、需要の減少によるものである可能性が高い。

では、日本の景気回復にはどうしたらよいのだろうか。需要の減少によるデフレと生産の縮小であるから、答えは簡単である。財政政策による景気刺激と累進課税の強化による低所得者の救済である。これは奇しくも、民主党マニフェスト河村たかし名古屋市長などの主張と一致している。

ところで、デフレにはもう一つの影響がある。いま、何らかの理由により、デフレになったとしよう。すると、デフレによってお金の価値が上がることになる。お金の価値が上がると、お金(金融資産)を持っている人は喜ぶかもしれないが、借金(負債)がある人は悲しむことになる。というのは、より多くのモノを返さなければならなくなるからである。ちなみに、金融資産も負債も持っていない人は、これによって影響は受けない。したがって、デフレは、金融資産のある人には、その(モノに換算した)金融資産を増やすことになり、反対に、負債のある人には、より負債を大きくする、という作用がある。言い換えると、金融資産で測った富の不平等を拡大させることになる。

この影響はどうか、というと、実は、日本では、人々は金融資産を持っている。だから、デフレによって、人々は全体として金持ちになっているのである。にもかかわらず、需要が減少している、ということは、いかに国内での所得の不平等や富の偏在が凄まじいか、ということであろう。

ちなみに、アメリカではどうか、というと、人々は借金をしているのであるから、デフレになると大弱りになる。日本とアメリカでは、デフレの影響が異なるのである。